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~第二十一話⑭~ どうして私たちを信じないのですか?

Author: 倉橋
last update Last Updated: 2025-11-12 05:15:09

 ふたりの絆を嘲笑うかのように日美子が足早に近づいてくる。

「朝井くん、どういうことなのか説明してくれるかしら」

 厳しい言葉が容赦なく悠馬に投げつけられる。

「ぼ、僕にも分かりません。本当なんです」

 悠馬のか細い声。悠馬の声をかき消すように、男子生徒たちの大声。

「おい、ウソ言ってんじゃねえよ」

「クラス委員、ヘンタイだと白状せんか」

「みんなにあやまらんか!」

「退学だ、退学」

 春樹がゆっくりと悠馬の方に進み出る。生徒たちが一斉に静かになる。まるであらかじめ打ち合わせていたようだ。

 春樹が悲しみの表情を悠馬に向ける。心の中では爆笑の真っ最中。

 そっと自分の髪をイケメンモードに、さわやかモードにかきわける。

「朝井くん。このようなことになって本当に残念だ。ロッカーのキーを持っているのは君ひとり。マスターキーは厳重に管理されている。君もこうなったら潔く本当のことを話して欲しい」

 一斉に廊下から拍手が湧きおこる。女子生徒の声援。感動の涙。

「朝井君」

 松山も近づいてくる。

「君のロッカーに隠されていたブルマは、列車内でのわいせつ行為の直接の証拠にはならないが、間接的証拠にはなる。それに新たな犯罪の直接証拠でもある。気の毒だが警視庁本庁まで……」

 飛鳥が首を左右に振る。

「何の証拠にもなりません。このブルマーは私が悠ちゃんにプレゼントしたものです」

 ついに呼び名が、「朝井くん」から「悠くん」、そして「悠ちゃん」に変わった。

「あなたがブレゼント?」

「ええ、悠ちゃんのこと愛しているから、私の大切なものを贈りたかったんです?」

「それじゃあ聞くけど何で十枚も二十枚もあるの?」

「それじゃあ聞きますけど、何で十枚、二十枚、持っていちゃいけないんです」

「いい加減なこと言わないで。ブルマのサイズ、それぞれバラバラでしょう。L・M・S! あなたひとりのものじゃないでしょう」

「ストレスで体重が増えたり減ったりするんです」

 飛鳥は絶対に引き下がらない。

「遠山さんだったね。もうやめよう。これ以上、かばっても無駄だよ」

 松山が諭すように話しかける。

 飛鳥は松山や日美子をにらみつける。新学期の頃、龍たちにクラス委員を押しつけられて泣いていた飛鳥。だがもう泣いたりなんかしない。

 本当は弱虫で臆病な悠馬。本当は他人と争うことなんて絶対に出
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  • ~スーパー・ラバット~ムーン・ラット・キッスはあなたに夢中   ~第二十一話⑮~ 飛鳥は負けない

    「定期テストが一位の私と二位の悠ちゃん以外、みんな頭の悪い、どうしようもない人たちばかりです。村雨くん」 飛鳥は怒りを込めて、窓から教室をのぞきこんでいる龍をにらみつけた。絶対に目をそらさなかった。「私にムリヤリ、クラス委員を押しつけようとした。それだけじゃない。悠ちゃんにいろんな仕事を押しつけていた。何で真面目に掃除当番やらないの? 理由言いなさいよ」 春樹が不機嫌な顔を飛鳥に向ける。「そうだ。勝手にウサギ持ち出してたよね。どういうこと」 春樹の目に殺気が宿る。龍があわてて反論しようとする。「知らないなんて言わせない。みんな事実だから」 一瞬早く、飛鳥の叫び。龍は何も言うことが出来ない。「イケメンだったら、弱い者いじめや卑怯なことしていいの? 好き勝手していいの? こんな男子がクラスカーストのトップ? あなたたち本当に頭悪いんじゃない。こんなヤツの言いなりになって、私にクラス委員を押しつけようとした。何とかいいなさいよ」 廊下に集まった生徒たちの間に静寂が訪れた。何も言えずに下を向いている。そっと教室から離れていく者もいる。龍は怒りで歯ぎしりしている。イケメンらしくない見苦しい表情である。「分かったでしょう。私と悠ちゃんの言うことが全部正しいの。悠ちゃんは無実。誰かの陰謀で痴漢にされただけ。頭の悪いあなたたちがさっき叫んでいたふざけた言葉、全部そのまま返してあげるから」 飛鳥は悠馬の右手をしっかり握った。悠馬に力強く呼びかける。「悠ちゃん、行こう」 そのまま、悠馬を引きずるように、教室から飛び出していったのである。  生徒たちは下を向いたまま、その場に立ち尽くしていた。  一瞬の出来事だった。松山たちが我に返ったときはもう遅い。飛鳥はあまり知られていない東門から学校の外へ飛び出していた。

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  • ~スーパー・ラバット~ムーン・ラット・キッスはあなたに夢中   ~第二十一話⑫~ エブリー・スタインは勝利を確信する!

     清水市のはずれ、光頭山のふもとの空地。その空地には、セレネイ王国の戦闘型宇宙船、ムーン・レーカーがそびえている。 ここはムーン・レーカー司令室。三百六十度に広がる巨大な窓からは、周囲の光景がよく見渡せる。そしてここには、ムーン・レーカーの頭脳とも云える銀河系宇宙最新のコンピュータが設置されているのだ。 そしてセレネイ王国が開発した「パール・ハバーズ」と呼ばれるミサイルの発射装置が置かれている。大都市を一瞬のうちに消滅させるすさまじいパワーを持つと云う。 ムーン・レーカーは、セレネイ王国で開発した「ブラインドリバーシステム」という最新の防御装置を作動させているため、ムーン・ラット・キッス女王からは、この宇宙船を見ることも出来ないし、宇宙船内部での会話などの音声もキャッチ出来ない。そうエブリー・スタインは考えていた。 今、エブリー・スタインは、コンピュータの前に立ち、勝利を確信する笑みを浮かべていた。 すぐ後ろにはドメル副官が控えている。だがその表情は沈痛だった。「ムーン・ラット・キッス。あのババア、どこかに隠れてオレたちの様子を伺っているんだろう。だが『ブラインドリバーシステム』が作動している限り、オレたちの宇宙船は見ることが出来ない。そしてオレたちの会話もキャッチできない。オレたちの計画も分からない。お前がご執心の朝井悠馬が空地で追い詰められれば、必ずお前は助けに現れる。そのときこそ、『ムーン・レーカー』の総攻撃が始まるのだ」 悠馬と飛鳥を空地におびき寄せたのは、村雨兄弟に手柄を立てさせるためではなかった。どこにいるのか分からないムーン・ラット・キッスが悠馬を助けに現れたとき、一瞬でその場に倒すためだった。「ドメル」 エブリー・スタインが振り返った。「ババアが現れたら『パール・ハバーズ』を発射する。いつでも発射できるように準備をしておけ」 自分の父親くらいの年齢のドメルに対して、エブリー・スタインは横柄な言葉を投げかけた。「お待ちください。『パール・ハバーズ』はあくまで最終兵器のはずです。核兵器よりも環境や生物体系への影響が大きいことをご存知でしょう。地球の核兵器を理由に地球総攻撃を主張しているのに、それでは全く筋が通りません」 すぐにドメルが反論する。血を吐くような必死の叫びだった。「年齢をとると、何でも

  • ~スーパー・ラバット~ムーン・ラット・キッスはあなたに夢中   ~第二十一話⑪~ 春樹たちの計画は完璧?

     春樹は飛鳥が手紙を読んだことを確認し、他人には気づかれないように薄笑いを浮かべた。荒川先生の筆跡を真似たニセ手紙だと全く気がついていない。(エブリー・スタインの言う通りだ。たとえ無実でも、ここから逃げ出せば有罪と自白するようなものだ。町はずれの空地でふたりを捕まえれば、オレたちの名声も上がる) 春樹はエブリー・スタインと相談したときのことを思い出した。 春樹はエブリー・スタインから受け取った計画書を読み終えると、いつもの自信家が不安そうな表情を浮かべた。「荒川の筆跡を真似るのは簡単だけど、あとで荒川がそんな手紙を書いていないと言い出したら、面倒なことになるんじゃありませんか?」 エブリー・スタインはあわてなかった。「私からの計画書をもう一度、見てください」 エブリー・スタインの自信たっぷりの言葉を聞き、春樹は計画書のプリントされたA4の用紙に目を落とした。「えっ?」 いつも冷静な春樹が大声をあげた。 A4の用紙は、いつのまにか白紙に変わっていた。エブリー・スタインが白紙の用紙と化した計画書を自分の手に収める。「まあ、こういうワケです。荒川先生の手紙自体、存在しなくなるのです。彼等は自分の意志で学校から逃げ出した。そういうことになるのです」 エブリー・スタインが金色のボールペンを取り出した。「このペンで手紙を書き、すぐに封筒に入れてしっかり封をしてください。封筒から手紙を取り出せば、約十分後には自然と文字が消えてしまいます。日本で販売されているフリクションシリーズとは違って、直射日光に当てる必要はありません」 春樹はエブリー・スタインに指示された通りに行動し、ついに悠馬や飛鳥を破滅させるところまできた。(もうすぐだ、もうすぐだ) そして教室前の廊下では、龍のカノ女の真宮子が一年の女子生徒を冷たい目で見据えていた。「手紙、おまわりに渡したんだよね」 女子生徒はおびえた表情でうなずく。「じゃあ、サッサと消えてよ。あんたなんかキモイし……」 女子生徒は背中を向けると小走りに去った。 

  • ~スーパー・ラバット~ムーン・ラット・キッスはあなたに夢中   ~第二十一話⑩~ もはや弁解は出来ない

     悠馬は下を向いたままだった。「どうなの? きちんと答えてください」 日美子が厳しく悠馬に詰め寄る。文が眉をひそめた。すぐ悠馬に助け舟を出そうとしたが、その必要はなかった。悠馬が顔を上げたのである。「スペアキーを持っているのは僕だけです。だからスペアキーでロッカーを開けるのは、僕ひとりしか出来ません」 声は小さいがしっかりした口調だった。文がそっと悠馬の方に目を向けると、飛鳥が悠馬の肩にそっと手を置いているのが見えた。文は思わず口元に笑みを浮かべていた。「それではまず朝井君の机の中、それからロッカーを点検させてもらう。朝井君、立ち会ってくれるね」「はい」 松山が教室前方のドアに目を向ける。ドアが開き、三人の鑑識員が入ってきた。「よろしくお願いします」 松山が挨拶する。「遠山さん、あなたは離れてください」 日美子が飛鳥に命令口調で伝える。飛鳥は悠馬から離れた。「そのままドアの方に行ってください」 飛鳥は逆らうことも出来ず、教室後方のドアに向かった。制服警官が声をかけてくる。「あなた、遠山飛鳥さん?」「はい」「さっき一年の生徒だと思うけど手紙を預かりました」 そう言って封書を手渡す。 飛鳥が封筒を開けると、便せんが折り畳んで入っていた。見慣れた文字だった。便箋の一番最後に「荒川京華」と記されていた。確かに荒川先生の自筆だ。飛鳥はそう信じ込んだ。<今、手が離せなくて助けることが出来ません。情勢が不利なら隙を見て逃げてください。以前に天文観測を行った町はずれの空地覚えていますね。私を信じて、まっすぐそこに来てください> 飛鳥はあわてて手紙をしまう。春樹が誰にも見えないようにニヤニヤ薄笑いを浮かべている。 エブリー・スタインの言葉を思い出していた。「ニセの手紙で町はずれの空地におびき寄せるのです。教室から逃げ出したら、誰でも犯人だと思い込む。それが狙いです。そしてあなたたちが先回りをしてふたりを捕まえれば、ますます学校での評価が上がるというものです」 飛鳥はまだ知らない。この手紙が巧妙なニセモノだという事実を……。

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